トレンドに取り組む前に、ブレンダーは、ふと考えた。
新しいウイスキーをつくる、ということが
今までにないおいしさをつくることであるのなら、
まずは「ウイスキーかくあるべし」という
固定観念を捨て去るべきではないか。
視野を狭くするような約束事は、
一度きれいに忘れてしまおう。
ルールは、ふたつだけ。
誰でも気負いなく楽しめるウイスキーであること。
かと言って、ただ飲みやすいだけではない、
古くからのウイスキーファンも虜にするほど
おいしいウイスキーであること。
あえてグレーンを使わないブレンデッド・モルトで、
やブってみよう。
ブレンダーがイメージしたのは、音楽。
凄腕のアーティストたちによるセッション。
類まれな才能と技術を持つ演奏家たちが、それぞれ持ち味を発揮しながら
肩の力を抜いて遊ぶように、心地よいサウンドを展開する。
そんなウイスキーは、できないだろうか。
ブレンダーは試みを重ね、
スコットランドのモルトと日本のモルトの組み合わせにヒントを見出した。
ハイランドで育まれた、フルーティーでかろやかなベン・ネヴィスや、
華やかな香りを咲かせるスコティッシュモルトの数々。
そして、ふくよかな宮城峡モルトと、力強い余市モルト。
個性豊かなモルトたちが出会い、圧巻のパフォーマンスが始まった。