もともとマラスキーノは、ダルマチア地方で、神のお酒として伝統的に作られてきたリキュールでした。原料となるマラスカ種チェリーは、小さくて黒くて苦みが強く、乾燥させて安く売るだけの商品価値しかない無価値なフルーツです。そのマラスキーノが一躍脚光を浴びたのが、ナポレオン戦争のときでした。全ヨーロッパが武装し、各地で戦いが繰り広げられる中、兵士たちはマラスキーノのような強いお酒に群がりました。よりいっそう酒精を強くしたショック・マラスキーノも作られ、ダルマチア地方は時ならぬ活況を呈することになります。しかし、ナポレオン戦争の終結とともに、マラスキーノは見向きもされなくなります。イタリアのルクサルド社の創業者であるジロラモ・ルクサルドが登場するのは、マラスキーノ業界が暗雲におおわれていたこの時代です。彼は原点に立ち返り、それをさらに洗練させた新しいタイプのマラスキーノ作りに挑戦していきます。納得のできる洗練された豊潤な香味が得られるまで、彼は何度も蒸留実験を繰り返したといいます。ジロラモ・ルクサルドがダルマチア地方に最初の工場を建てたのは1821年、彼が37歳のときでした。8年後には、時の権威であったオーストリアから専用製造権という特権を授与され、ルクサルド・マラスキーノはリキュールとしての確固たる地位を確立していくことになります。マラスキーノ・ルクサルドは世界中に輸出されていきました。このリキュールを最も愛したのがオーストリア皇帝でした。ルクサルド・マラスキーノの飲み方は、チェリーの濃厚な味わいを生かしたカクテルが一番です。単にソーダで割るだけでもさっぱりとして美味しいです。また、カクテル以外にも製菓用として世界中のパティシエに愛されています。
更新日時 : 2018年02月09日
カテゴリ : 世界のお酒
180年ほど前、スペインの植民地支配下にあったベネズエラでは、現地民のインディオやアフリカ黒人奴隷がコーヒー・ココアの栽培や金の採掘といった労務に酷使されていました。これを見て立ち上がったのが、のちにコロンビア大統領となったシモン・ボリバルです。
ボリバルは、コロンビア独立軍を率いて戦い、ベネズエラ独立へのきっかけを作りました。1820年代のことでした。この戦いのさなか、ベネズエラ・オリノコ川流域にあるアンゴスチュラの町にあった英国陸軍病院でアンゴスチュラ・ビターズは生まれました。この病院において、ベネズエラ解放軍の軍医として従軍していたドイツ人医師J・シーガート博士が食欲不振・胃の疾患を訴える兵が多いのを見て、1824年にある薬用酒を考案しました。これがアンゴスチュラ・ビターズです。このアンゴスチュラ・ビターズはジェンシアン(りんどう属)を主体に、シナモン・キナ皮・アンジェリカ・コリアンダー・アーモンド・ナツメグ・カルダモンなど各種薬草と香辛料をラム酒に浸漬して作ります。健胃・強壮・解熱の薬効があり、西インド諸島ではマラリアの予防薬として用いている所もあります。また現在でもBarなどでは胃薬的な扱いをしている所もあります。現在は、ベネズエラの政情不安のため、アンゴスチュラ(のちに英雄の名をとってシウダド・ボリバル市と改称)からトリニダードトバゴに移り、生産しています。最近飲み過ぎたというお方は、ジントニックなどに数滴アンゴスチュラ・ビターズを入れて飲んでみたらいかがでしょう。風味もまし、調子もよくなること請け合いです。マンハッタンもいいですよ。
1765年、フランス語ではリシャール、英語ではリチャード・ヘネシーは、メゾンヘネシーを創業しました。なお、創業者の名前をとったリシャール・ヘネシーというブランデーもあります。さて、1817年まだプリンス・オブ・ウェールズ(英国の皇太子を指します)だった後のイギリス国王ジョージ4世は、コニャックをこよなく愛していました。王子はヘネシーに「Very Superior Old Pale――非常に優れていて、古くて、澄んでいる――コニャック」が醸造できないかと尋ねました。以来、この頭文字を採ったVSOP――Very Superior Old Pale――がコニャックの基準を示すものとして業界全体で使われるようになりました。ヘネシーのコニャックは、コニャック地方でのみ造られています。まず重要なのは、ブドウの木です。ここではユニブランという品種が作られています。ライトでフルーティーなブドウは、銅製蒸留器で2段階蒸留するのに適しています。このアロマは洗練されて変化に富み、第一等級の4つの畑で作られたオー・ド・ヴィーのみを厳選して造られるヘネシーのコニャックは、洗練され、多彩なアロマを放ちます。次に熟成です。熟成期間は、時に人間の一生より長く、先見性や想像力が試されます。ヘネシーのセラーでは、樹齢100年を超えるフランス原産のオークの木から作られた大樽が、ほのかな明りの中で重厚な香りを漂わせています。ファウンダーズ・セラーは、ヘネシーの伝統である、時を超えるという精神を表しています。これらのオー・ド・ヴィーはすべて、短いもので50年、長いものでは100年以上熟成されています。一番上には、たぐい稀な品質を保つためのデミジョン(かごでくるんだガラス製の大瓶)が置かれています。これは、次のコニャックを作るために使われます。伝統と高級感、ヘネシーVSOP!
更新日時 : 2018年01月05日
カテゴリ : 世界のお酒